「計測器の管理」はISO9001の初版が1987年に発行されて以来一貫して要求されてきた項目です。組織には様々な「計測するための機器」がありますが、それらは何でも管理対象になるのでしょうか?そしてどの程度管理したらよいのでしょうか?
ISO9001:2015では、管理対象は「計測器」だけではない
まず確認しておく必要があるのは、ISO9001:2015が対象としているのは計測器(測定機器)だけではない、ということです。ISO9001:2015の7.1.5は「監視及び測定のための資源」というタイトルで、「資源」という言葉が使われています。そして「資源」には、設備や機器といった物理的なものだけでなく、人も含まれます。従って、ここでは例えば監視・測定するための「人」も含まれるのです。ここからもこの項目が「計測器」だけを対象にしているのではないことが分かるでしょう。
そして前半の7.1.5.1では、このような「監視及び測定のための資源」が、それによって得られる監視・測定結果が妥当なものであるようにするために必要な管理をすることが求められています。例えば、製品の検査をする人(検査員)やサービスの出来栄えをチェックする人が適切な力量を持っていなければ、その人が行った検査やチェックの結果は信頼することはできません。ですので、そのような人は当然検査やチェックを行うのに十分な力量を備えている必要があります。このようなことが7.1.5.1では求められているわけですが、上記の例からも分かるように、ここで言う「監視及び測定のための資源」が監視・測定を行う人を意味する場合、これは実質的には7.2の「力量」の項目を通じて管理が行われることになるでしょう。
そのほかにも、例えば「チェックリスト」を使って出来栄えをチェックすることもあるでしょう。その場合、この「チェックリスト」もここで言う「監視及び測定のための資源」ということが言えます。ですがこの場合も、7.1.5.1で求められていること(「チェックリスト」が適切なチェック結果をもたらすような適切な内容であるようにすること)は、実質的には7.5の「文書化した情報」(いわゆる「文書管理」)を通じて管理されることと思いますので、7.1.5.1に該当するから特別な管理が追加で必要になる、ということはないでしょう。
なお、このように考えた場合、7.1.5の「監視及び測定のための資源」が自分たちの組織には該当しない、と言うことは適切ではないと言えます(サービス業であっても、そのサービスの良し悪しを全くチェックする人がいない、ということはあり得ないでしょう)。
測定結果の妥当性を保証しなければならない場合は特別な管理が必要
今までは一般論としての「監視及び測定のための資源」の話でしたが、その中には、測定結果が正しいことを組織が保証しなければならないような、重要な特性を測定する機器もあります。例えば、図面で寸法が指定されている場合、検査でその寸法が図面通りであるかどうかを判定した上で顧客に出荷するような場合、もしその計測器が間違っていたら測定結果も間違ったものになってしまい、そうするとそこで行った合否判定は間違ったものになってしまっている可能性があります。
このような、製品やサービスにとって重要な特性を測定するような場合は、測定結果が妥当であることを保証するために、それを測定する機器に対してより厳密な管理が求められます。それについて規定しているのが7.1.5.2です。
ここでは、国際標準や国家標準に紐づけられた計量標準に基づいて校正や検証を行うこと、これらの校正や検証の状態を識別すること、測定機器が正しい結果を出せなくなってしまうような調整をしたり、損傷・劣化したりしないように保護すること、更には測定機器が適切でないことが分かった場合(例えば、校正外れが見つかった場合)にそれまでその機器で測定した結果が妥当であったかどうかを評価すること、といった具体的で詳細な事項が要求されています。
計測器であれば何でも管理しなければならない、は間違い
このように、ISO9001:2015の7.1.5は、前半(7.1.5.1)で監視・測定のために使用される資源を広く捉えて、それらが適切で意図した目的を果たすことができるように管理することを要求し、後半(7.1.5.2)で、その中でも特に重要な特性を測定する機器について具体的で詳細な要求をする、という二段構えになっています。
ここで注意したいのは、何かを測定する機器であれば何でもこの7.1.5.2に従って校正しなければならない、などということを言っているわけではないということです。7.1.5.2の対象とすべき測定機器は、あくまでその要求事項を満たす必要があるような重要な特性を測定する機器に限定されます。
例えば、製品の最終検査で使用し、合否を判定するために使用する計測器は、それが壊れていたら正しい測定値が出ず、結果として不良品をお客様に引き渡してしまう可能性がありますから、7.1.5.2に従って管理しなければなりませんが、工程内での目安として簡易的なチェックのためにだけ使用している計測器は対象とする必要はないでしょう。もちろん、対象としてより厳密な管理をしてはいけない、ということではありませんが、それによって管理対象の機器の数が多くなってしまい、結果としてより重要な機器の管理が疎かになってしまう、というようなことがあれば本末転倒です。そのようなことがないようにするためにも、リスクに応じて重点管理することが、マネジメントシステムを効果的かつ効率的に運用する一つの秘訣と言えます。
まとめ
ISO9001:2015の7.1.5.1で言う「監視及び測定のための資源」は、監視測定する人を含めて広く適用される。一方で校正や検証を含めた管理を要求している7.1.5.2の対象は、そのような厳密な管理をする必要があるような重要な特性を測定する機器に限定される。測定機器のリスクに応じて現実的な管理をすることがマネジメントシステムの効果的・効率的な運用のポイント。
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